Japanische Klassiker mit Furigana
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ようねんじだい
幼年時代・晩夏
堀 辰雄
Lesen Sie 幼年時代・晩夏 (ようねんじだい) von 堀 辰雄 (ほりたつお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 85.965 Zeichen · 169 Bildschirme
三
「あなたなぞは随分お古いから御存知でしょうが、この裏の通りにあったあの水車ですね。――昔はあの裏通りのことを水車の道なんぞと外人達がいっていましたが――あの水車というのは、元来日向さんの御主人が拵えさせて、自分の別荘の方へ山水を引かせていたものなのですが、まあこの辺では昔からあれが唯一の水車でして、あの林の入口でごとんごとんと音を立てながら日ねもす廻っていた長閑な様子は何んとなく気持のいいものでした。ところが、その日向さんの御主人が七八年前に急にお亡くなりになった。著名な政治家でしたけれども、これがまたこの上もなく廉潔な方でしたので、殆ど財産らしいものは何んにもお残しにならなかったものですから、たいへん奥さんたちはお困りになられたようで、その別荘もすぐ売りに出されました。最初は一万円位でというお話でした。それは地所も千二三百坪からありましたし、場所も申分はないのですが、何しろ家は古いし、景気も悪かった時分ですから、なかなか買手がつきませんでね。――それに奥さんも割合に暢気なお方なので、いくらお困りになられていてもそれで買手が無ければしようがないといった風で、その話はそのままになすって、それからまた引続き二三年の間夏になると唯一人のお嬢さんをお連れになってはいらしっておりました。