Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Lesen Sie 新書太閤記 (しんしょたいこうき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 190.406 Zeichen · 381 Bildschirme

Aozora Bunko

「平七」

「はッ」

「ちと、遅うなったな」

「いえ何、はっきりと、時刻のお示しはなかった御書面、多少は遅刻になりましょうとも」

「そうでない。雪斎禅師のような御老体でも、いつもお時刻は誤った例しがないぞ。われら若年の身が、ましてや質子の分で、重臣方や老師などのお揃いしてある席へ遅参申しては心ぐるしい。急ごうぞ」と、やや駒を早め出した。

口取の郎党に小者三名。それと榊原平七だけが供だった。

平七は、駒の足と、歩調を合わせて駈けて行くうちに、何とはなく眼がしらに熱いものが滲みわいてならなかった。

――可憐しいお心根。

と、そう思うのであった。

築山夫人に対しての堪忍も、お館(義元をいう)に向っての素直な御忠節も、今の境遇にあるうちは――と、ひそかに、忍耐の歯をかんでおられるのだ。自分ら臣下としては、一日もはやく、この君の枷を解き、質子という隷属的な存在から、小さくとも、三河一城の独立した主君に御復帰せしめなければならない。

それを、一日過しでいることは、一日の不忠である。平七は、そう思って、

(今に。今に!)

と、唇をかみつつ、そして自分の誓いに、また、瞼を熱くしながら駈けていた。