Japanische Klassiker mit Furigana
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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
Lesen Sie 次郎物語 (じろうものがたり) von 下村 湖人 (しもむらこじん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.724 Zeichen · 355 Bildschirme
彼はその二つの品を机の上に置いて、しばらくそれに見入った。家が没落して売立がはじまった時、そのなかにまじっていた刀剣のことが、ふと彼の記憶によみがえって来た。すると、眼のまえの西洋かみそりが何かそぐわない、うすっぺらなもののように感じられてならなかった。しかし、そんな感じはほんの一瞬だった。彼はすぐかみそりの刃をひらいた。そして、いつ、誰に、どこできいたのか、また、それが果して定法なのかどうかはっきりしなかったが、血判や血書には、左手のくすり指の指先をすじ目に切るものだということが頭にあったので、その通りに指先をかみそりの刃にあて、おなじ左手のおや指で強く、それをおさえながら、思いきりすばやく、一寸ほど横にすべらせた。
つめたいとも、あついともいえぬような鋭い痛みが、一瞬指先に感じられた。しかし、そのあとは何ともなかった。血も出ていない、次郎はしくじったと思った。しかし、そう思っておや指のささえをゆるめたとたん、赤黒い血が三日月形ににじみ出し、それが見る見るふくらんで、熟した葡萄のようなしずくをつくった。
次郎はいそいでそれを小皿にうけた。つぎつぎにしたたる血が、たちまちに、小皿の中央に描いてあった藍絵の胡蝶の胴をひたし、翅をひたし、触角をひたしていった。