Japanische Klassiker mit Furigana
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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
Lesen Sie 次郎物語 (じろうものがたり) von 下村 湖人 (しもむらこじん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.724 Zeichen · 355 Bildschirme
次郎は、表面張力によってやや盛りあがり気味に、真白な磁器の膚をひたして行く自分の血を、何か美しいもののように見入った。そしてそれからおよそ三十分の後には、彼は一枚の半紙に毛筆で苦心の文句を書きあげていたが、その三十分間ほど彼にとって異様に感じられた時間はこれまでになかった。それはちょうど氷のはりつめた湖の底に炎がうずまいているような、静寂と興奮との時間であった。
もっとも、字があまり上手でないうえに、使いなれない毛筆を血糊にひたしての仕事だったので、濃淡が思うようにいかず、あるところはべっとりと赤黒くにじんでいるかと思うと、あるところはほとんど血とは思えないほどの黄色っぽい淡い色になっていて、全体としてはいかにも乱雑に見えた。しかし、一ヵ所も消したり書き加えたりしたところがなく、また、一字一字を見ると、下手ながらも極めて正確で、誰にも読みあやまられる心配はなかった。文句にはこうあった。
知事閣下並に校長先生
私たち八百の生徒は、昨今名状しがたい不安に襲われています。それは、私たちの敬愛の的である朝倉道三郎先生が突如として我校を去られようとしていることを耳にしたからであります。