Japanische Klassiker mit Furigana
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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
Lesen Sie 死者の書 (ししゃのしょ) von 折口 信夫 (おりくちしのぶ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 62.340 Zeichen · 126 Bildschirme
十一
十一
ほほき ほほきい ほほほきい――。
きのうよりも、澄んだよい日になった。春にしては、驚くばかり濃い日光が、地上にかっきりと、木草の影を落して居た。ほかほかした日よりなのに、其を見ていると、どこか、薄ら寒く感じるほどである。時々に過ぎる雲の翳りもなく、晴れきった空だ。高原を拓いて、間引いた疎らな木原の上には、もう沢山の羽虫が出て、のぼったり降ったりして居る。たった一羽の鶯が、よほど前から一処を移らずに、鳴き続けているのだ。
家の刀自たちが、物語る口癖を、さっきから思い出して居た。出雲宿禰の分れの家の嬢子が、多くの男の言い寄るのを煩しがって、身をよけよけして、何時か、山の林の中に分け入った。そうして其処で、まどろんで居る中に、悠々と長い春の日も、暮れてしまった。嬢子は、家路と思う径を、あちこち歩いて見た。脚は茨の棘にさされ、袖は、木の楚にひき裂かれた。そうしてとうとう、里らしい家群の見える小高い岡の上に出た時は、裳も、著物も、肌の出るほど、ちぎれて居た。空には、夕月が光りを増して来ている。嬢子はさくり上げて来る感情を、声に出した。
ほほき ほほきい。
何時も、悲しい時に泣きあげて居た、あの声ではなかった。