Japanische Klassiker mit Furigana
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えどのかじゅつ
江戸の火術
野村 胡堂
Lesen Sie 江戸の火術 (えどのかじゅつ) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.929 Zeichen · 36 Bildschirme
敵同士は敵同士、許婚は許婚、別れるものなら別れるように、もう一度本名の繁代を名乗らせて逢って見度い、――昨夜の親しい取なしは、伝書を奪い取り度さの手段であったにしても、膝に置いた温かい手の感触には、処女心のおののきを感じたことを、井上半十郎は忘れ兼ねたのです。
あの眼の深い悩み、――声の柔かい魅惑、何も彼もが、一つの妖かしとなって、半十郎の魂を手繰り寄せるのでしょう。赤痣を拭き取った繁代の素顔が、今ではもう、「井上流砲術秘巻」より十倍も大きな魅力となって、グイグイと引寄せます。
二俣へ着いたのは丁度昼頃、此処から天龍川を遡上ったものか、右へ秋葉山の近道を辿ったものか、それとも左へ気賀へ出たものか、暫らく考えて居ると、男の子が二三人、岐れ路のほとりで、飯事をして遊んでいるのがありました。
「二十四五の旅の女の人が通った筈だが――何方へ行ったか、教えてくれ」
井上半十郎は静かに声を掛けると、
「天龍を遡上ったよ」
洟垂れの男の子が答えます。
遡上る――そんな六づかしい言葉を、男の子が使うでしょうか。
「嘘だろう」
井上半十郎思わず威猛高になります。
「嘘じゃないよ、――そう言って教えたんだもの――」