Japanische Klassiker mit Furigana
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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
Lesen Sie 火星の魔術師 (かせいのまじゅつし) von 蘭 郁二郎 (らんいくじろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 151.120 Zeichen · 302 Bildschirme
私達はしばらくそこで目を潰っていた、目をつぶると、まるでここが深海の底でもあるかのように、何んの音もしなかった。ごくまれに、むくむくと太ったが、鈍い羽音を響かせながら、もう結実しかけた藤の下を、迷い飛ぶ位のものであった。南風が潮の香をのせてやって来た、それは青々とした海原の風であった。
……暫らく目をつぶっていると、フトどこかで忍び笑うような気がした。眼だけ動かしてみると、隣りの椅子に寝ていた諸口さんが、空を見上げながら、何か、思い出し笑のような、擽ぐったげな、それでいてどこかで私も経験したような、妙に歪んだ笑い顔を、むりに堪えているのであった。
(おや)
と思った私は、その儘、眼で彼女の視線を追ってみた。彼女の視線は赤い屋根に突当ってしまった。
(ヘンダナ……)
と思いながらもう一度彼女の視線を追った私は、ハッとするものに突あたった、そして思わずしげしげとそれを見つめたのである。
それは赤い屋根の上、蒼空の中に、大きく浮んだ真白い入道雲であった。むくむくとよじれ登るようなその入道雲は、想像も出来ないような、妙な形を造っていた。
私は諸口さんの忍び笑いの意味がハッキリわかると一緒に、この物静かな、何気ないような肺病娘にも、マダム丘子と似た血潮の流れているのを知って、フトいやあな気持になった。