Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(七) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 330.262 Zeichen · 662 Bildschirme
門ともいえぬ形ばかりの入口には、大きな柿の木の若葉が繁茂していて、そこらの日蔭の湿地には青白い花屑や萼がいッぱい散り腐えていた。
「まだか」
と、正季が内へ訊く。
「すみました」
と、兵の声が内でする。
余りに堂は荒れていたので、先に道場の大床を清掃させていたものらしい。正成は弟の用意をうれしく思った。ずっと入って、南面の濡れ縁に立ち、何か安心に似たものを覚えた。
ここに立つと。
海は真正面に、会下山から湊川を右に、東の花隈から御影方面も一望だった。だが、黒い真綿のような薄煙の膜が所々の視野をさえぎり、やや西へ傾きかけた日輪も、それをとおして、あかがねのような、ふしぎな赤さを呈していた。
或る年の、或る月の夜には、ここで念仏講の部落の男女が、鉦をたたき、経文を諷し、念仏踊りに夜すがら法楽してもいたろうにと、正成は、ここを自分らの死所に借りることの罪深さを痛感した。けれど、一族枕をならべる最期の座として、またとなく、ここは気に入った。ここに如く所はないと思った。
「おゆるしを」
と、正成は胸のうちで言った。道場の奥なる貧しい壇の阿弥陀像へまず拝をしていたのである。