Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(四) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 229.324 Zeichen · 458 Bildschirme
「死ぬほどなら、いのちにかけても……」
彼女は暗い中で、たれへともなく、唇を噛んでいた。高氏とも会って、いちどは、この恨みを、としているような一念の眸であった。
その高氏と道誉との、男同士の勝手な話を、彼女はさっき、茶堂の物蔭にいて、すっかり聞いていたのである。もう涙などこぼれもしない。――おのれの大望とやらのためには、子まで生ませた女を品物のように易々として他の男へ譲るという高氏も憎いし、また、女の生命を、おもちゃか何ぞのようにしか見ていないあの道誉はなおのことだった。いくら憎んでも憎みたらない口惜しさだった。無念さだった。
「……おお、こよいを過ごしては、またと恨みをいえる日もあるまい。朝ともなれば、殿は、軍へ立つにきまっている」
藤夜叉は、やがて立った。姿は、よろめいてさえ見える。そして燭台のある一ト間へ移ってそこの鏡蓋を開けていた。
やがてほど経て、桃井直常の声がどこかでしていた。細殿の外から内の灯影をたしかめてでもするように、
「藤どのでございますな。そこに、おいででございましたか?」
と、念を押すように言っている。
藤夜叉は、化粧を直していたのである。