Japanische Klassiker mit Furigana
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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
Lesen Sie ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) von 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 132.905 Zeichen · 262 Bildschirme
左手には聖の東角も、近い尾根から片鱗をひらめかしている。日はようやく、大井川のこちら側にも射してくる。中ノ宿の尾根まず覚め、千挺木のつづきも、木立の梢から光りを吸いはじめる。しかし所ノ沢のここが日光に浴するのは、十時を過ぎてだ。峠つづきの、思いの外な南寄りから日が昇ると、凍りかけた血が、湯に浸ったように心地よく勢いづく。しみじみとありがたい。その頃赤石は、真向からの陽を射返して、眼がくらむようで、ほとんど見詰められなくなる。空も碧藍が、北へ次第上りに濃度を増して、暗いまでに深くなり、その極、灰紫の眩色をさえ発するにいたる。
昼近く、南に廻った日を斜めにうけて、赤石は尾根も谷も、寒い片影をおびてくる。そしてそれがだんだんひろがるにつれ、山体の凹凸は彫刻的に浮き沈みする。同時に、見えない大井川は、ようやく煙霞を漂わせはじめる。昼過ぎる頃は山体がますます、光と陰の大塊に分裂するとともに、煙霞はいよいよ濃密となり、山はおのずと中空に浮び上る感がする。
と、三時頃には日は既に、中ノ宿の尾根から聖の背後に隠れて、所ノ沢は再び冷たい陰の世界に帰り、空は縹が淡く透きとおって、底からだんだんと黄味を潮し、赤石はわずかに峯角に際立った残照をとどめて、しらじらと蒼ざめる。