Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

Lesen Sie ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) von 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 132.905 Zeichen · 262 Bildschirme

Aozora Bunko

おのづから香に匂う春の山気かな

やがて、軒端や木末から、点滴が落ちはじめ、四方の山々が、淡すり霞だつ。富士は、寝起きの眼に、急にはそれと、見分けにくいほど、大空と一様に照り輝く。日中となれば、まるで宙に浮かんだ、目も眩むばかりの大光体。夜のお山も、おぼろに明るく、暗い空さえ、もやもやと温か味。だが、そんな後は、また雪だ。それも春らしい牡丹雪。

三月に入るや、四面すべて、深い雪に埋もれ果てる。常葉木は、すぼめた傘なりに、さも重たげに枝を垂れ、影嚮石も厚い綿帽子を被ぎ、堂の羽目板まで白いものが斑々。そうした景色を眺めていると……鎧や狩衣や烏帽子など着けた人物が、雪路を踏み分けて、今にもあれ、そこへ、向うの木かげから――それが、まざまざと、眼にちらついてかなわぬ! 当時の日記は、そう訴えている。夢か、はた現つか。恐らく、古い物語、能、演劇の連想か、あるいは又もっと深く、血にひそむ、祖先の経験の発露か……いずれ、時世とかけ離れた山住みが生む、浪漫的な幻影でがな。

こうして、往来も久しく絶えた、ある夕暮、ただならぬざわめきとともに、――先生! 何ぞ、腹薬を、持って御座らっしゃらぬか……と、画中の世界から呼び覚まされて、急に我に帰った私の、怪しむ耳へ、堂守のおろおろ声。