Japanische Klassiker mit Furigana
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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
Lesen Sie ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) von 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 132.905 Zeichen · 262 Bildschirme
峡谷の景色が、一足ごとに整ってくる。今あの浅ましいトロッコ電車の上からのぞいて見ると、それでも処々、昔の岨道の残りが、なつかしく眼にうつる。仏石の茶屋のあたり、その最たるものだ。鐘釣温泉も、もはや量も温度も、温泉としての資格を失ったらしい。谷の景色と運命を共にしたのだ。この水力電気という、山の鉄砲虫は、どこまで喰いこんで行くものか。それでなくても、到る所、山の神域は、「下乗」の石が立っていないのをいい事にして、参道から玉垣を越え、神殿までもおかそうとする。まったく大概にしてもらいたい。ものの貴さが解らないくらい、おそろしいことはない。今第一級の国宝になっている偉大な仏像が、維新の当時、道ばたの草むらに捨ててあった話を思い出す。それより、薪にしてしまったのはどうだ。
鐘釣温泉も、かくて昔語りに生きる運命となったか。大正四年、七月から十月小屋じまいまで厄介になった時の、思い出はいよいよ貴い。その前、明治から大正に移る夏、大井川を初めて歩いて、その山と谷に、燃える心身を浸らせたあとで、この黒部の谷は、また大いに自分の心を揺った。上流へさかのぼらん望みは、いよいよ強まった。