Japanische Klassiker mit Furigana
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てんしゅかくのおと
天主閣の音
国枝 史郎
Lesen Sie 天主閣の音 (てんしゅかくのおと) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 38.941 Zeichen · 79 Bildschirme
一一
玄関に立って案内を乞うた。
「ご免下さい。ご免下さい」
どこからも返辞が来なかった。尚二三度呼んで見た。矢張り返辞は来なかった。香具師は些か当惑した。
「裏の方にでもいるのだろう」
裏の方へ廻って行った。だが誰もいなかった。
ひっそりとして寂しかった。
近所に家は一軒も無かった。
香具師は次第に大胆になった。例の奇形な建物の方へ、ズンズン足早に進んで行った。
建物の戸口が開いていた。で彼は這入って行った。
一一
一歩踏み入った香具師は「やっ」と云って眼を見張った。
長方形の建物一杯、天上の虹でも落ちたかのように、紅白紫藍の草花が、爛漫と咲いていたからであった。
建物は仕切られていなかった。端から端まで見通された。左右の壁に棚があり、それが階段を為していた。その上に大小無数の鉢がズラリと行儀よく並べられてあり、それが一つ一つ眼眩くような、妖艶な花を持っているのであった。
部屋の恰度真中所に、一基の寝台が置いてあり、その上に老人が横臥っていた。八十歳あまりの老人で、身に胴服を纏っていた。手に煙管を持っていた。それは非常に長い煙管で、火盞が別して大きかった。