Japanische Klassiker mit Furigana
ja-reading.com
Lesen Sie japanische Klassiker online mit Furigana. Filtern Sie nach JLPT-Niveau, tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung und übersetzen Sie einen Satz.
ようねんじだい
幼年時代・晩夏
堀 辰雄
Lesen Sie 幼年時代・晩夏 (ようねんじだい) von 堀 辰雄 (ほりたつお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 85.965 Zeichen · 169 Bildschirme
自分の苗字が呼ばれても、私は一ぺんでもってそれに返事をした事はなかった。私はどういうわけか、父とは異った苗字で呼ばれることになったので、その新しい苗字を忘れまいとすればするほど、いざと云う時になってそれをけろりと忘れていた。そんなとき、私はふいと窓のそとの母の方を見ると、母がはらはらしながら、私に手ぶりで合図をしている。私はやっと先生が同じ名を何度も繰り返しながら、自分の方を見下ろしているのに気がつき、はじめてはっとしてそれにおずおずと返事をするのだった。
学校からの帰りみち、母と子とはよくこんな会話をし合った。
「もう明日からは一人で学校へお出……」
「うん」
「……いいかい、お前の苗字を忘れるんじゃないよ……」
「うん……」私は自分にどうしてそんな父とは異った苗字がついているのか訊こうともせずに、まるで自分の運命そのもののように、それをそのまま鵜呑みにしようと努力していた。
そんな或る日、きょうは学校の前までで好いからと言って附いて来て貰った母と一緒に、私は運動場の入口に近いところで、始業の鐘のなるまで、皆がわあわあ云いながら追っかけごっこをしたり、環になって遊んでいるのを、ただもう上気したようになって見ていた。