Japanische Klassiker mit Furigana
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ようねんじだい
幼年時代・晩夏
堀 辰雄
Lesen Sie 幼年時代・晩夏 (ようねんじだい) von 堀 辰雄 (ほりたつお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 85.965 Zeichen · 169 Bildschirme
いまの私達の家に引越すとき、他の小さな植木類は大抵移し植えたが、その無花果の木だけはそのままに残してきた筈だった。――
私はその老人が何も言わずに気むずかしげに仕事をしつづけているのに気がねしながら、縁側に倚りかかって、緒方の出してきた袋の中から自分のもらうベイを選んでいる間も、絶えず隣りの家に気をとられていた。そのときの私のおずおずした目にも、それはまあ何んとうす汚れて、みじめに見えたことか。それは私が緒方にさえもその家が昔の自分の家だったことを口に出せずにいた位だった。
「お隣りは何んだい?」私は漸っとためらいがちに訊いてみた
「ふふ……」緒方はいかにも早熟たような薄笑いをした。
それから彼はちらりと自分の老父の方を偸み見ながら、私にそっと耳打ちをした。
「お妾さんの家だ。」
私はその思いがけない言葉をきくと、不意と、何か悲しい目つきをした若い女の人の姿を浮べた。それは私の方でも大へん好きになれそうだし、向うでも私のことを蔭ではかわいがってくれているのに、その境遇のために何とはなしに私に近づけないでいる、あのおよんちゃんという小さなおばさんに似た、それよりももっともっと美しい人だった。