Japanische Klassiker mit Furigana
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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Lesen Sie 新書太閤記 (しんしょたいこうき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 190.406 Zeichen · 381 Bildschirme
元康は、心のうちで、じっと、自分でつぶやきを噛みしめていた。
この気持――口に出さないこの思いは――明けても暮れても胸を往来していた。
「不愍な家臣ども……」と。
時にはまた、身を顧みて、
「よく生きて在った」
と、思う。
徳川蔵人元康――いうまでもなく後の徳川家康――は今年十八歳だった。
もう子どもがある。
義元の一族、関口親永の娘を、義元の計らいで娶ったのである。それが十五歳であった。元服も同時にした。
子は、この春生れたので、まだ半年ほどにしかならない。
彼が机をおいている居室にまで、時折、泣く児の声が聞えて来た。産後の肥立ちの悪い妻はまだ産室にいた。妻は児を産室から離さなかった。嬰児の声は耳につきやすい、まして十八歳で父となった彼には、初めて聞く骨肉の声でもあった。
けれど元康は、めったに奥へは立たなかった。よく人のいう子の可愛さというような気持は、分らなかった。自分の心のうちを探してみても、どうもそういう愛情は、今のところ、乏しいというよりも見当らなかった。こうした自分が父であることは、子や妻へすまない気がした。
「……不愍な者ども」
と、思うたびに、惻々と胸のつまる心地がするのは、むしろ骨肉でなくて、岡崎の城に、年来、貧窮と屈辱に耐えている家臣たちの身であった。