Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Lesen Sie 新書太閤記 (しんしょたいこうき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 190.406 Zeichen · 381 Bildschirme

Aozora Bunko

媒人夫婦も、縁者一同も、この席にはいない。みな襖どなりに控えているのであった。

「…………」

藤吉郎は杯を持った。

酌人は、寧子へ取り次ぐ。

「…………」

寧子も契りをのむ。

藤吉郎の顔はさすが上気して胸も動悸を覚えたが、寧子は思いのほか落着いていた。

これからの生涯、どんなことに出会おうとも、自ら求めたものとして、親をも神をも恨まじとちかうような決意が、杯のふちへそッと触れる唇に、可憐とも悲壮とも云いようなく見えていた。

聟の君と花嫁との杯事がすむと、陰の間にひかえていた媒人役の丹羽兵蔵が、

音ずれは

松にこと問う

浦風の落葉衣の袖そえて

木蔭の塵を掻こうよ

所は高砂の――

祝謡の一ふしを戦場鍛えのさびた喉で、精いっぱい謡いだした。

尾上の松も年古りて

老の波もよりくるや

木の下蔭の落葉かく

なるまで命ながらえて

なおいつまでか生の松

それも久しき……

ここまで丹羽兵蔵が謡ってくると、何者か、夕顔の花のまばらに白い籬の外の暗がりで、不意に、

「――名所かな。――それも久しき名所かな」

と、謡い取って、唱和した男があった。

兵蔵の祝謡に、家の内も近所もしいんとしていた。それだけに、突然、ぶしつけに垣の外で謡い取った男の声も目立った。