Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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さくらのみのじゅくするとき

桜の実の熟する時

島崎 藤村

Lesen Sie 桜の実の熟する時 (さくらのみのじゅくするとき) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 111.569 Zeichen · 222 Bildschirme

Aozora Bunko

九

その晩、捨吉は何とも言って見ようのないような心持で、寝床の方へ行った。自分に不似合な奉公から離れて、何とかして延びて行くことを考えねば成らないと思った。

九

薄暗い、天井の高い、伊勢崎屋の隣家の空いた土蔵の内で、捨吉は昼寝から覚めた。店の方に客足の絶える暑い午後の時を見計って交代で寝に来ることを許される小僧達と一緒に、捨吉もそこへ自分の疲れた身体を投出したことは覚えているが、どのくらい眠ったかは知らなかった。

朝起きるから夜寝るまで殆んど自分等の時というものを有たない店の人達はその許された昼寝の時を僅かに自分等のものとして、半分物置のようにしてあった土蔵の内に日中の夢を貪っていた。捨吉は眼を覚まして半ば身を起した。周囲を見廻した。

「吉どん。御新造さんがもうお起きなさいッて」

裏口づたいに寝ている人を揺り起しに来る房州出の下女もあった。

堪えがたい熱に蒸されて皆な死んだようにごろごろしている。魚のように口を開いて眠っているものがある。そこは伊勢崎屋と同じような雑貨店が以前営まれたと見え、塵埃の溜った隅の方には帳場の跡らしいものも残っている。雑貨の飾られた棚の跡らしいものもある。