Japanische Klassiker mit Furigana
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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
Lesen Sie 次郎物語 (じろうものがたり) von 下村 湖人 (しもむらこじん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 200.443 Zeichen · 398 Bildschirme
木にのぼって、鋸をひきながら、次郎は、たえす、恭一にあてて書いた手紙のことばかり考えていた。
(もし恭一の手紙にあるように、道江の自分に対する気持ちに、いくらかでも望みがあるとすると――)
そんな仮定がいくたびとなくかれの頭の中を往復した。ばかな! と、そのたびごとに自分を叱ってはみるが、しばらくたつと、いつのまにか、また同じ仮定がかれの心にしのびこんでいるのだった。そして、
(何もあわてて返事を出す必要はない。出してしまったらもう取りかえしがつかなくなるのだ。)
と、そう考えて、いそいで木をおり、事務室の発信ばこのほうにかけつけたくなったことも、一度や二度ではなかった。
しかし、また一方では、恭一の手紙を信じようとする自分の甘さを思った。それを信じて返事をおくらしたために、自分の本心を恭一に見ぬかれるということは、かれの自尊心がゆるさなかったのである。
かれは、枝を一本おろすごとに、自分の腕時計を見た。最初見たときには、二時間半までには、まだ四十分以上の時間が残されていたので、かれの気持ちには、かなりのゆとりがあった。しかし、十五分、十分と、残された時間が少なくなるにつれ、かれの焦躁感はしだいに高まって行った。