Japanische Klassiker mit Furigana
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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
Lesen Sie 次郎物語 (じろうものがたり) von 下村 湖人 (しもむらこじん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 159.223 Zeichen · 320 Bildschirme
春子のお嫁入り、それは次郎にとって少しも悲しいことではない。彼は、村の娘たちの嫁入姿をこれまで何度も見たのであるが、そんな時に春子の場合を想像しても、それは美しいまぼろしでこそあれ、決して苦痛とは感じられなかった。また春子の相手が、何処の誰であろうと、それも次郎にとって、ほとんど問題ではない。その人物を想像してそれに対して、敵意を持つというような気には少しもなれないのである。彼には、ただ春子が薬局から姿を消すのがたまらなく淋しい。それもこの近在にでもいて貰えばまだいい。夏休み中だけで帰って来るのなら、辛抱も出来る。しかし、竜一の言うのが本当なら、彼女は遠い東京に去るのである。もう一度帰って来るにしても、結局は永久にこの村から姿を消すのである。あれほど自分を可愛がっておきながら、どうしてそんな遠いところに行く気になれたのだろう。自分が幼いころからほしいと思っていた「姉」、やっと平気で「姉ちゃん」と呼びうるようになったその「姉」が、どうしてこんなに無造作に自分から離れて行くのだろう。
彼の心には、お浜に別れた時のかすかな記憶があらたに甦って来た。その時のこまかな事実は、もう大てい忘れているが、言いようのない淋しさのために、地の底にでも吸いこまれるように感じたことは、今でもはっきり覚えている。