Japanische Klassiker mit Furigana
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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
Lesen Sie 次郎物語 (じろうものがたり) von 下村 湖人 (しもむらこじん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 159.223 Zeichen · 320 Bildschirme
「次郎――」
正木のお祖父さんが、うしろから、そっと彼の肩をたたいた。彼はやっと自分にかえって、眼を母の顔から放した。そして、その時はじめてすべてを諒解したかのように、彼の眼に涙がこみあげて来た。彼はいきなり畳の上につっ伏して声をあげた。
「次……次郎――」
お祖父さんのふるえを帯びた声が、頭の上にきこえて、その手が再び彼の肩にさわった。
「坊ちゃん――。」
悲鳴に似たお浜の声がつづいてきこえた。そしてその瞬間に、彼の顔はお浜の膝に、お浜の顔は彼の背中に、ふるえながらつっ伏していた。
周囲から嗚咽の声がくずれるようにきこえ出した。その声の中を、次郎はお浜に抱かれるようにして部屋を出た。
死体は間もなく座敷にうつされた。次郎は、お浜や俊亮や正木の老夫婦に慰められて、やっと涙がとまると、むせるように線香の匂いのする母の枕元に、默々として坐りこんだ。そして帷子の紋附をさかさにかけられた母の死体を、一人でじっと見つめていた。彼には、ともするとそれがかすかに息をしているかのように見えた。しかし、弔問客が来て、その顔の覆いが取りのけられるごとに、彼の眼にまざまざとうつるものは、まぎれもなく、氷のような死顔であった。