Japanische Klassiker mit Furigana
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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
Lesen Sie 次郎物語 (じろうものがたり) von 下村 湖人 (しもむらこじん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 159.223 Zeichen · 320 Bildschirme
しかし、その間にも、蚊は容赦なく彼の上半身を襲って、彼の忍耐力に挑戦した。彼はそのたびに思わず芋虫のように体を左右にまげた。そして最後にとうとう両手を使って、一挙に蚊帳の裾を頭の方に引っぱってしまった。
「次郎や。」
この時、気味わるく落ちついた母の声が、彼の耳をうった。
「お前、誰にそんな芸当を教わったの。」
次郎は返事をする代りに、軽い鼾をしてみせた。
「次郎ったら。」
母の声は急に鋭くなった。次郎はびくっとしたが、今更どうすることも出来なかった。すると次の瞬間には、お民の指が彼の耳朶をつかんで、再び彼を蚊帳の外に引きずった。
次郎は、かつて直吉の耳朶に、全身の重みを託そうとしたことがあった。しかし、自分自身の耳朶に自分の体を託した経験は、全くはじめてである。彼は思わず悲鳴をあげた。両手は思わず母の手を握った。それで耳朶の痛みはいくらか減じたが、その代りらくらくと蚊帳のそとに引きずり出されてしまったのである。
「そこに夜どおしで、そうしているんだよ。」
母はあらあらしい息づかいをしながら、寝床に這入った。
次郎の眼からは、ぼろぼろと涙がこぼれた。しかし彼は喉にこみあげてくる泣き声を、じっと噛み殺した。