Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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えどのかじゅつ

江戸の火術

野村 胡堂

Lesen Sie 江戸の火術 (えどのかじゅつ) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.929 Zeichen · 36 Bildschirme

Aozora Bunko

井上半十郎は、振り分の荷物を顧みて、苦笑いをしました。

「井上流砲術秘巻」を片時も自分の側から離す気は無かったのです。

「それでは、御免下さいまし」

お静は丁寧に一礼して、風呂場へ降りて行きました。

やや暫し、井上半十郎には、怪しい物思いが附き纏います。大事な荷物を奪い返してくれた上、江戸までの路用を持つと言う、法外な好意を寄せてくれる女、――別に疑いも何うもするわけではないのですが、何んとしても、何処かで一度ならず見たことがあるような気がしてならないのです。あの凄まじい赤痣に記憶はなくとも、透き徹る美しい声や、深沈たる黒い瞳は忘れようの無い魅力的なものでした。

「お待たせいたしました」

お静は湯から上って、一陣の薫風と一緒に入って来ました。

「あッ」

井上半十郎、思わず声を立てます。

薄化粧の顔に、赤痣は火の如く燃えて、半面の醜くさが強調された代りに、左半面の美しさは比類もありませんが、半十郎の驚いたのはそれではなく、この女の顔が、風呂で洗い浄めて、情熱に燻蒸すると、曾て半十郎の許婚だった繁代――あの稲富喜太夫の娘で喜三郎の妹だった繁代に、何んとなく似通ったところのあるのに気が付いたのです。