Japanische Klassiker mit Furigana
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ぬまふじん
沼夫人
泉 鏡花
Lesen Sie 沼夫人 (ぬまふじん) von 泉 鏡花 (いずみきょうか) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 39.541 Zeichen · 78 Bildschirme
が、風がまたどこからか吹いて来て、湿っぽい、蒼臭い、汗蒸れた匂が、薬の香に交って、むらむらとそこらへ泳ぎ出す。
疲れ切った脳の中に、その臭気ばかりが一つ一つ別々に描かれて、ああ、湿っぽいのは腹籠りで、蒼臭いのは蝮の骸、汗蒸れたのは自分であろう。
そのにおいを見附けたそうに、投出している我が手をはじめ、きょろきょろとす内に、何となくほんのりと、誰だか、婦の、冷い黒髪の香がしはじめる。
香のする方を、熟と見ると、ただやっぱり白い……が、思いなしか、その中に、どうやら薄墨で影がさして、乱しもやらず、ふっくり鬢が纏って、濃い前髪の形らしく見分がつく、と下から捲上がるごとく、白い切が、くるくると小さくなり、左右から、きりりと緊って、細くなって、その前髪を富士形に分けるほど、鼻筋がすっと通る。
「奥さん!」
と思わず言って、小松原はまた目を覚した。
トもまだ心着かないで、
「今、開けます。」
と言って、愕然として我に返った。
「また、夢か。」
今度は目が覚めつつも、まだ、その俤が室の中に朦朧として残ったが、吻と吐く呼吸にでも吹遣られるように、棚の隅へ、すっと引いて、はっと留まって、衝と失くなる。