Japanische Klassiker mit Furigana
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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
Lesen Sie 火星の魔術師 (かせいのまじゅつし) von 蘭 郁二郎 (らんいくじろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 151.120 Zeichen · 302 Bildschirme
黒吉は、もうそれを止める元気もなかった。何故とはなく、止め度なく溢れる泪を、拭う気力もなかった。
一瞬にして、葉子と由子とを失ってしまった自分――。それが大暴雨のあとのように、妙に信じられないような、その癖、まだどこかに、無気味なものが残っているような、……こうしている今にも、葉子と由子とが、「こんにちわ――」と笑いながら、這入って来そうな、妙な気持だった。
ダガ、それはあまりにも酷い一瞬だった。あれ程までに自分の恋したっていた葉子、あれ程までに自分を労ってくれていた由子――それが、この一寸した手違いから、もう遠く自分から離れてしまったのだ。
由子には済まない話だけれど、――それに、一寸考えると、妙なことだけれど――、自分の本当に恋し、本当に満足させてくれていたのは由子ではないヤッパリ葉子だったのだ。
黒吉は、由子を抱きしめながら、葉子のことを思い、そしてそれを葉子のように愛撫していた。いってみれば、由子の肉体は、黒吉にとって、「葉子の幻像」であったのだ。温たかい、現実的な写し絵にすぎなかったのだ。
黒吉は、由子を勢一杯抱きながら、葉子の香に酔っていた。