Japanische Klassiker mit Furigana
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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Lesen Sie 玉藻の前 (たまものまえ) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 130.703 Zeichen · 261 Bildschirme
太平の春は短いものじゃ」
天下の宰相としてこの苦労は無理ではなかった。二人はまた黙っていると、庭の若葉はだんだんに暗い影につつまれて、溢れるばかりに漲った池のほとりで蛙がそうぞうしく鳴き出した。
「ああ、世の中がうるそうなった。わしもお暇を願うて、いっそ出家遁世しようか」と、忠通はまた溜息をついた。
「御出家……」と、玉藻は聞き咎めるように言った。「殿が御出家なされたら、あとは誰が代らせられまする」
「頼長かな」
「そうなりましたら、左大臣殿は思う壺でござりましょう。現に殿がお引き籠りの後は、かのお人がなにもかも一人で取り仕切って、殿上を我が物顔に押し廻していらるるとやら。今ですらその通り、殿が御隠居遊ばされたら、その後の御威勢は思いやられまする」
「彼のことじゃ。さもあろうよ」と、忠通は苦笑いした。
その笑いの底には、おさえ難い不満が忍んでいた。日頃からややもすれば兄を凌ごうとする頼長めが、おれの引き籠っているのを幸いに、冠をのけぞらして殿上を我が物顔にのさばり歩く。その驕慢の態度が眼にみえるように思われて、忠通は急にいまいましくなってきた。うかつに遁世して、多年の権力を彼にやみやみ奪われるのは如何にも残念で堪まらないように思われてきた。