Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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たまものまえ

玉藻の前

岡本 綺堂

Lesen Sie 玉藻の前 (たまものまえ) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 130.703 Zeichen · 261 Bildschirme

Aozora Bunko

心安う思え」

「ありがとうござりまする」と、玉藻も晴れやかな眼をして会釈した。

雨はその日の夕方からひとしきり降りやんで、鼠色の雲が一枚ずつ剥げてゆくように明るくなった。その明るい大空の上には赤い星が三つ四つ光っていた。この時代の習いで、亥の刻頃(午後十時)には広い屋形の内もみな寝静まって、庭の植え込みでは時どきに若葉のしずくのこぼれ落ちる音がきこえた。今夜は蛙も鳴かなかった。

女の童の小雪というのが眼をさまして厠へ立った。彼女は紙燭をともして長い廊下を伝ってゆくと、紙燭の火は風もないのにふっと消えた。それと同時に暗い行く手に明るい光りが浮き出して、七、八間ほど先きを静かに動いてゆくのを見たので、年の若い小雪はぎょっとして立ちすくんだ。光りのぬしは女であった。女は長い袴の裳をひいて、廊下を静かに歩んでゆく。そのうしろ姿が玉藻によく似ていると思ううちに、廊下の隅にある一枚の雨戸が音もなしにするりと明いて、女の姿は消えるように庭へぬけ出した。小雪は一種の好奇心にうながされて、これも足音をぬすんでそのあとからそっと庭に降り立つと、玉藻に似た姿は植え込みの間をくぐって行って、奥庭の大きい池の汀にすっくと立った。