Japanische Klassiker mit Furigana
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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Lesen Sie 玉藻の前 (たまものまえ) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 130.703 Zeichen · 261 Bildschirme
もう一つ彼をおびやかしたのは、すだれのうちから響いた女の声であった。
わらわに恋するなど及ばぬこと――それが強い意味を含んで千枝太郎の胸にこたえた。恋か何か知らないが、彼は初めて衣笠の名を聞いたときから――初めて衣笠の顔を見た時から――彼の心はその方へ怪しく引き寄せられてゆくように思われた。彼の心は知らずしらずに妖麗の玉藻を離れて、端麗の衣笠の方へ移っていった。その秘密、彼自身すらもまだはっきりとは意識していない内心の秘密を車のぬしはとうに見破っているらしい。一種の羞恥心と恐怖心とがひとつになって、千枝太郎はもうその車を追いかける勇気を失った。彼は石のように突っ立って、だんだんに遠ざかっていく車の黒い影をいたずらに見送っていた。
車のぬしは確かに衣笠であろうか。あるいは自分の見損じで、彼女はやはり玉藻ではあるまいか。衣笠の顔と玉藻の顔と、衣笠の声と玉藻の声と、それが一つにこぐらかって、混乱した千枝太郎の頭にはもうその区別が付かなくなってきた。どう考えても衣笠が今頃ここへ来る筈がない。それがやはり玉藻であるらしく思われてきたので、彼はもう一度その正体を見極めたくなって、大胆に再びそのあとを追おうとすると、彼の踏み出した足はたちまち引き戻された。