Japanische Klassiker mit Furigana
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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Lesen Sie 玉藻の前 (たまものまえ) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 130.703 Zeichen · 261 Bildschirme
千枝松は世界が俄に広くなったように思った。そうして、晴ればれしいというよりも、なんだか頼りないような悲しい思いに涙ぐまれた。彼は重い草履を引きずってとぼとぼと歩いて来た。
藻の門の柿の梢がようように眼にはいったと思う頃に、彼は陶器師の翁に逢った。翁は野菊の枝を手に持って、寂しそうに俯向き勝ちに歩いていた。ふたりは田圃路のまん中で向かい合った。
「じいさま。どこへゆく」
挨拶なしで行き違うわけにもいかないので、千枝松の方からまず声をかけると、翁はゆがんだ烏帽子を押し直しながら、いつもの通りに笑っていたが、その頤には少し痩せがみえた。
「これじゃ。婆の墓参りじゃ」と、彼は手に持っている紅い花を見せた。
「婆どのが死んだか」と、千枝松もさすがに驚かされた。「いつ死なしゃれた。急病か」
「おお、丁度おまえが来て、いさかいをして帰った晩じゃ」
その夜ふけにそっと戸を叩いた者がある。婆はいつもの寝坊に似合わず、すぐに起きて戸をあけた。外には誰が立っていたのか知らないが、彼女はそのままするりと表へ出て行って、夜の明けるまで帰って来なかった。翁も不思議に思って近所に聞き合わせたが、なにぶんにも夜更けのことで誰も知っている者はなかった。