Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(七) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 330.262 Zeichen · 662 Bildschirme
隣りなき丘
正成の床几は、その会下山の上でも見晴らしのいい所におかれ、今朝から静かな姿をすえていた。
この日、旧暦の五月二十五日は新暦の七月十二日にあたる。
花崗岩帯の白い粗い土質が空のかがやきをハネ返して、かぶとの眉廂にてかてか火照る。――時はまだ午前九時半ごろか。――だのに草のある所は草いきれが燃え、ふもとから丘の中腹をうずめている馬の背の波は、いななきも揚げずぐッたりしていた。すべてここではまだ一矢の矢うなりも聞えない。耳につくのは、幾旒もの――
菊水の旗
“非理法権天”の旗
それの旗風だけだった。
が、ここにある約九百余人の者は、山海の涼風にひとり眼をほそめているような静かな山上の人を知ると、なんとなく自分らもすべてをまかせ切ったおちつきの中にその姿勢を柔軟なものにしていられた。なおまた、
「騎馬の士は、みな馬を下りていよ。すこしでも馬にはらくをさせておけ」
という正成の注意でもあったので、物見、伝令のほかは、みな鞍をおりていたことでもあった。かくてまだ、
満を持す――
というまでにも、正成は脚下の陣へ、一令だに下してはいなかったが、心もからだも自分と一つものにそれを見ることができていた。