Japanische Klassiker mit Furigana
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しょうたく
荷風随筆集(下)〔全2冊〕
永井 荷風
Lesen Sie 荷風随筆集(下)〔全2冊〕 (しょうたく) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 36.633 Zeichen · 74 Bildschirme
風は傘を奪おうとし、吹雪は顔と着物を濡らす。しかし若い男や女が、二重廻やコートや手袋襟巻に身を粧うことは、まだ許されていない時代である。貧家に育てられたらしい娘は、わたくしよりも悪い天気や時候には馴れていて、手早く裾をまくり上げ足駄を片手に足袋はだしになった。傘は一本さすのも二本さすのも、濡れることは同じだからと言って、相合傘の竹の柄元を二人で握りながら、人家の軒下をつたわり、つたわって、やがて彼方に伊予橋、此方に大橋を見渡すあたりまで来た時である。娘は突然つまずいて、膝をついたなり、わたくしが扶け起そうとしても容易には立上れなくなった。やっとの事立上ったかと思うと、またよろよろと転びそうになる。足袋はだしの両脚とも凍りきって、しびれてしまったらしい。
途法にくれてあたりを見る時、吹雪の中にぼんやり蕎麦屋の灯が見えた嬉しさ。湯気の立つ饂飩の一杯に、娘は直様元気づき、再び雪の中を歩きつづけたが、わたくしはその時、ふだん飲まない燗酒を寒さしのぎに、一人で一合あまり飲んでしまったので、歩くと共におそろしく酔が廻って来る。さらでも歩きにくい雪の夜道の足元が、いよいよ危くなり、娘の手を握る手先がいつかその肩に廻される。