Japanische Klassiker mit Furigana
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しょうたく
荷風随筆集(下)〔全2冊〕
永井 荷風
Lesen Sie 荷風随筆集(下)〔全2冊〕 (しょうたく) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 36.633 Zeichen · 74 Bildschirme
七
滋養に富んだ牛肉とお行儀のいい鯛の塩焼を美味のかぎりと思っている健全な朴訥な無邪気な人たちは幸福だ。自分も最う一度そういう程度まで立戻る事が出来たとしたら、どんなに万々歳なお目出度かりける次第であろう……。惆悵として盃を傾くる事二度び三度び。唯見ればお妾は新しい手拭をば撫付けたばかりの髪の上にかけ、下女まかせにはして置けない白魚か何かの料理を拵えるため台所の板の間に膝をついて頻に七輪の下をば渋団扇であおいでいる。
七
何たる物哀れな美しい姿であろう。夕化粧の襟足際立つ手拭の冠り方、襟付の小袖、肩から滑り落ちそうなお召の半纏、お召の前掛、しどけなく引掛に結んだ昼夜帯、凡て現代の道徳家をしては覚えず眉を顰めしめ、警察官をしては坐に嫌疑の眼を鋭くさせるような国貞振りの年増盛りが、まめまめしく台所に働いている姿は勝手口の破れた水障子、引窓の綱、七輪、水瓶、竈、その傍の煤けた柱に貼った荒神様のお札なぞ、一体に汚らしく乱雑に見える周囲の道具立と相俟って、草双紙に見るような何という果敢い佗住居の情調、また哥沢の節廻しに唄い古されたような、何という三絃的情調を示すのであろう。