Japanische Klassiker mit Furigana
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しょうたく
荷風随筆集(下)〔全2冊〕
永井 荷風
Lesen Sie 荷風随筆集(下)〔全2冊〕 (しょうたく) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 36.633 Zeichen · 74 Bildschirme
五
婦には惚れられがちであった。しかしこういう業つくばりの男の事故、芸者が好きだといっても、当時新橋第一流の名花と世に持囃される名古屋種の美人なぞに目をくれるのではない。深川の堀割の夜深、石置場のかげから這出す辻君にも等しい彼の水転の身の浅間しさを愛するのである。悪病をつつむ腐りし肉の上に、爛れたその心の悲しみを休ませるのである。されば河添いの妾宅にいる先生のお妾も要するに世間並の眼を以て見れば、少しばかり甲羅を経たるこの種類の安物たるに過ぎないのである。
五
隣りの稽古唄はまだ止まぬ。お妾は大分化粧に念が入っていると見えてまだ帰らない。先生は昔の事を考えながら、夕飯時の空腹をまぎらすためか、火の消えかかった置炬燵に頬杖をつき口から出まかせに、
※(歌記号、1-3-28)変り行く末の世ながら「いにしへ」を、「いま」に忍ぶの恋草や、誰れに摘めとか繰返し、うたふ隣のけいこ唄、宵はまちそして恨みて暁と、聞く身につらきいもがりは、同じ待つ間の置炬燵、川風寒き子窓、急ぐ足音ききつけて、かけた蒲団の格子外、もしやそれかとのぞいて見れば、河岸の夕日にしよんぼりと、枯れた柳の影ばかり。