Japanische Klassiker mit Furigana
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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Lesen Sie 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 130.271 Zeichen · 263 Bildschirme
「これでは到底歩かれない。」
市郎は唯ある岩角に腰をかけて、用意の気注薬を啣んだ。足の下には清水が長く流れているが、屏風のような峭立の岩であるから、下へは容易に手が達かぬ。少しく体を前へ屈めると、飜筋斗打って転げ墜ちるであろう。斯う思うと、飲料を用意していない彼は愈よ渇を覚えた。
「自分は医師でありながら、何故斯う不注意だろう。」と、彼は自己を叱っても追付かない。市郎は余りに慌てて我家を出たのであった。
「それにしても、七兵衛や他の者は何うしたろう。」と、彼は心細さに斯んな事も考えた。が、今更引返すべきではない。進め、進め、倒れるまでも進めと、市郎は勇気を振い起して又歩き出した。あなたの梢では大きな山猿が、他を嘲るように笑っていた。
市郎は何処を何う歩いたか、半は夢中で無闇に進んで行った。それから約一時間ばかりも経ったと思う頃、彼はあなたの大きい岩の狭間から、一縷の細い煙の迷い出づるを見た。
「占めた!」
彼は喜んで躍った。で、思わず声を揚げて呼ぼうとしたが、遠方から敵を驚かしては妙でない。窃に近寄って其不意を襲うに如ずと、市郎は故意に跫音を偸んで、煙のなびく方へ岩伝いに辿った。