Japanische Klassiker mit Furigana
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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
Lesen Sie ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) von 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 132.905 Zeichen · 262 Bildschirme
林道がはたと絶えて、身はまったく祖母谷峡流中のものとなる。ここに至って、高山登攀者の緊迫した、集注的な、累積的な意識が強く要求されてくる。わずかに生いすがった莎草の根を足代ろにして、断崖の中腹をたどる。深く、勁く、冷たい水流を徒ち渉る。垂直に近い岩壁を、山人の差し出す細い木の枝などを頼りに、はいあがる。あらゆる末梢神経が、網の目のごとく呼応して、ほとんど神来的に、重力と、物と物との引力の、微妙なバランスを操つる……
一年の大半を、雪のため惨く圧迫されている楓や桂やその他の雑木は、みんな木末を谷底に向けて這っているから、頭を衝かれながらも、その枝幹に取りすがって、それが無ければ到底身を運べないような処を、かろうじて行く頼りにはなる。根曲り竹は一番よくない。乗れば滑る、間に足を踏み込んだら、柵となって踏み出すにほとほと苦しむ、また押し分ければ、力のゆるむのを待って、一気に顔を弾きかえす……その茂みを出抜けた時には、冷たい汗が、竹の吹く白い粉にまみれつつ、いつ出来たともしれぬ擦り傷にしみて、チクチクと痛た痒ゆい。
蕗谷の河原伝いに、大きな蕗や香り高い独活を手がかりにして、今まで脚下の岩や梢越しに、恐ろしい飛瀑、急湍、深淵など、その片鱗をうかがってきた、祖母谷の谷底へと、ようやく下り立つ。