Japanische Klassiker mit Furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Lesen Sie つゆのあとさき von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 74.725 Zeichen · 148 Bildschirme
と大声に答えながら、口の中で「誰だろう。いけすかない。」とつぶやきながら、テーブルや植木鉢の間を小走りに通り抜けて階段を下りて行った。
階下は銀座の表通から色硝子の大戸をあけて入る見通しの広い一室で、坪数にしたら三、四十坪ほどもあろうかと思われるが、左右の壁際には衝立の裏表に腰掛と卓子とをつけたようなボックスとかいうものが据え並べてあって、天井からは挑灯に造花、下には椅子テーブルに植木鉢のみならず舞台で使う藪畳のような植込が置いてあるので、何となく狭苦しく一見唯ごたごたした心持がする。正面の奥深い片隅に洋酒を棚に並べた酒場があって、壁に大きな振子時計、その下に帳場があり、続いて硝子戸の内に電話機がある。君江は行きちがう人ごとに笑顔をつくりながら、電話室へ駈け込み、「もしもしどなた。」ときくと、電話は君江を呼んだのではなく、清子という女給の聞きちがえであった。
爪先で電話室の硝子戸を突きあけ、「清子さん。電話。」と呼びながら君江は反身に振返ってあたりを見廻したが、昼間のことで客はわずかに二組ほど、そのまわりに女給が七、八人集っているばかり。植木の葉かげを透して見ても清子の姿は見えない。