Japanische Klassiker mit Furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Lesen Sie つゆのあとさき von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 74.725 Zeichen · 148 Bildschirme
座布団も色のさめたメリンスの汚点だらけになったのが一枚、鏡台の前に置いてある外には、木綿麻の随分古ぼけた夏物が二枚壁際に投出されているばかりである。君江はいつものように鏡台の前の座布団を裏返しにして清岡にすすめると、清岡はそれを窓の敷居の上に載せ、ズボンの折目を気にしながら再び腰をかけた。
窓の下はコールタの剥げたトタン葺の平屋根で、二階から捨てる白粉や歯磨の水の痕ばかりか、毎日掃出す塵ほこりに糸屑や紙屑もまざっている。この汚らしい屋根の彼方は、士官学校門前の通に立っている二階家の裏側で、汚い洗濯物や古毛布や赤児のおしめが干してある間から、絶えずミシンの音やら印刷機の響が聞える。これと共に士官学校の構内で生徒の練習する号令の声、軍歌の声、喇叭の響のみならず、昼の中は馬場の砂烟が折々風の吹きぐあいで灰のように飛んで来て畳の上のみならず襖をしめた押入の内までじゃりじゃりさせる事がある。清岡は丁度去年の今頃、初めて君江に導かれてこの貸間に立寄った時から、もう少しあたりの清潔な居心地の好い処へ引越したらばと勧めていたが、君江は唯口先でばかり同意しながら、その実今日まで更に引越そうとする様子もなく、家具も一年前と同じで、その後新に湯呑一つ買った事もないらしい。