Japanische Klassiker mit Furigana
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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
Lesen Sie オリンポスの果実 (オリンポスのかじつ) von 田中 英光 (たなかひでみつ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 75.277 Zeichen · 147 Bildschirme
たえず、ぼくの血管のなかには、あのひとの血が流れているほど、いつも、あのひとはぼくの身近にいる。それでいて、ぼくはあのひとの指先にさえ触ったことはないのだ。むろん触りたくはない。触るとおもっただけで、体中の血が、凍るほど、厭らしい。なぜだか、はっきり言えないが。
どこが好きかときかれたら、ぼくは困るだろう。それほど、ぼくはあのひとが好きだ。綺麗かときかれても、判らない、と答えるだろう。利巧かいといわれても、どうだか、としか返事できないだろう。気性が好きか、といわれても、さアとしか言えない、それ程、ぼくはあのひとについて、なんにも知らないし、知ろうとも、知りたいとも思わない。
ただ、二人でよく故里鎌倉の浜辺をあるいている夢をみる。ふたりとも一言も喋りはしない。それでいて、黙々と寄り添って、歩いているだけで、お互いには、なにもかもが、すっかり解りきっているのだ。あたたかい白砂だ。なごやかな春の海だ。ぼくは、その海一杯に日射しをあびているように、そのときは暖かい。
が目ざめてのち、ぼくはあのひとの幻だけとともに、まわりはつめたい鉄の壁にとりかこまれ漸く生きている気がする。