Japanische Klassiker mit Furigana
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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
Lesen Sie 上杉謙信 (うえすぎけんしん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.102 Zeichen · 256 Bildschirme
虚相実相
伝右衛門は、つと席を退がった。
「御芳情にあまえた。充分にいただきました。御君側へ、よろしくお伝え下さい」
「お帰りになられますか」
「ここは免されざる私の草くさ。長居は惧れがあります。……なお、また、最前からの其許のお志には、何と申すべきか、お礼のことばも弁えぬ。甲冑を解けばそれがしとて、世の親とかわり無き者でござるが、確と、物の具を体している身には、たとえ眼の前に、親の死、妻の涙、子の血しおを見ようとも、何の覚えはありません。自身の合戦があるのみです。――従って、今よりお断り申しておくが、今日、ここに御辺と酌み交わして、明日犀川、千曲の流れの畔で、御辺と兵馬のあいだにまみえようとも、初鹿野伝右衛門が槍先は決して鈍るものではござらぬぞ」
「御念には及ばぬ。その儀なれば、鬼小島弥太郎とても」
ニコと笑って、彼も起った。
「――では、麓までお送りしましょう」
虚相実相
日傘を翳した使者舟は、ふたたび千曲の水を渡って、対岸へ帰った。
遥か、雨宮の渡し一帯にかすんでいる甲軍の陣気は、いかに使者の帰りを待ちぬいているか、その旗叢に鳴る風の音にも知られるほどだった。