Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼしぞう
久生十蘭短篇選
久生 十蘭
Lesen Sie 久生十蘭短篇選 (ぼしぞう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 48.344 Zeichen · 96 Bildschirme
急に陽が翳って、湿った潮の香にまじった苔の匂いが冷え冷えと座敷にしみとおってきた。杜松子が坐っているあたりはいっそう蔭が深くなり、着物のくすんだ色目がしっとりと沈み、白い膚の色が舞いだすようにあざやかに見えた。
ふだんの滋子なら、すぐ気がつくのに、いままでなんとも思わずに見すごしていたのがふしぎなくらいだった。こうして見てみると三十歳ぐらいのひとの着付だが、十八、九の若さでそれがちっともおかしくないというのは、これはもうたいへんなひとなのだと思った。
「失礼ですけど、そのお装、結構な色目ですことね」
杜松子はどこか薄青い、深い眼付で滋子を見ながら、
「おほめをいただきましてありがとうございます。でもこれは母のおさがりですのよ。いちどちょっと日本へ帰ったときにつくったんだそうですけど、母はこの着物が好きで、日本へ帰ることがあったらこれを着て帰るようにってよくそうもうしましたので、きょう思いきって着てみましたの。でも三十年というとたいへんなデモードね」
「あなたは巴里のキャンプで伊作といっしょでしたって」
「十二人の方と七十日ばかりおりましたが、久住さんにはたいへんにお世話いただきました。