Japanische Klassiker mit Furigana
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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
Lesen Sie 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.739 Zeichen · 23 Bildschirme
だ」
その後お染はどうなったか、ブラジルのコーヒー園に籠った藤波金三郎には知る由もなく、年と共に、その初恋の思い出が深刻となり、お染への思慕が強烈になって行くのでした。
色恋が年と共に薄れ行くと思うのは、それは現実を瞞着した旧思想に過ぎず、事実は生活力が衰退して、異性との交渉が少くなるにつれて、若かりし日の記憶は強烈に鮮明に働き出すのです。
諸君の身辺に、偽善的でなく物の言える老人があったら、試みに這間の消息を訪ねて御覧なさい。世に老人の回顧の世界ほど、深刻で無残で、そしてゆるせないものがあるでしょうか。外国人はこの間の消息を捉えて、巧みに芸術的表現を与えて居りますが、東洋人、わけても日本人は、一概に灰色の諦めの中に老人を封じ込んで、枯淡な境地を強いようとして居ります。
音楽の上だけでも、リストの「レ・プレリュード」やシベリウスの「ヴァルス・トリステ」は、瀕死の老人の、青春への回顧の一瞬を、美しくも凄まじく描き出して、高い芸術境を示して居りますが、日本にはこれ程の芸術のあることを、不敏にして私は知りません。
それは兎も角として、藤波金三郎は曾てベルリオーズがエステルの懐ろに帰ったように、ブラジルの農園に老妻と二人の伜を置いて、三十何年か前の恋人を尋ねて日本へ帰って来たのでした。