Japanische Klassiker mit Furigana
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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
Lesen Sie 尾崎士郎短篇集 (あきかぜとはは) von 尾崎 士郎 (おざきしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.032 Zeichen · 216 Bildschirme
彼の眼は何か、おそろしい凶変を前にした人のようであった。
「どうしたの?」
「いや」
と兄は口早に言っただけで次の室へはいり机の上に置いてある酒罎から冷酒を呷るように飲んでから、――
「おれは自分で自分がわからなくなった。こんな生活を誰れが一体押しつけたんだ。おれはもう少しで気が違いそうだ」
家の中はひっそりとしていた。室の隅に床を敷いて寝ている嫂のそばに仰向いて寝ている子供は眼をひらいてじっと兄の方を見据えていたがその眼は未知の運命に対して怯えているように見えた。私がそのまま立ちあがってゆこうとすると、兄がうしろから鋭い声で呼びとめた。
「待て。――おれは今お前におふくろと話をしてもらいたくないんだ」
「何故?」
「俺の心はおふくろに対する憎しみで一ぱいになっているのだ。そりゃあ苦しい時には死にたくもなるし、実際死ぬ事ができたらその方がいいにきまっているさ。しかし、若しおふくろを自殺させたとしたら俺は一体どうしたらいいんだ。おふくろには自分の死骸の前に立っているおれの姿が見えないのかな。自分の苦痛につながりを持っている人間の姿が……」
私は黙って兄の前に首をうなだれていた。