Japanische Klassiker mit Furigana
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ようねんじだい
幼年時代・晩夏
堀 辰雄
Lesen Sie 幼年時代・晩夏 (ようねんじだい) von 堀 辰雄 (ほりたつお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 85.965 Zeichen · 169 Bildschirme
何んと刻せられているかと思って、私は柵の外から黄楊の木の枝をもちあげながら、見てみたが、脆い石質だとみえて石の面が殆んど磨滅していて、わずかに「……童……」という一字だけが残っているきりだった。それが男の子だかも、女の子だかも、もう知るよしもないのである。――
もう誰にもかえりみられることのない、そんな薄倖な幼児の墓を私は何か一種の感動をもって眺めているうちに、ふいと、一瞬くっきりと、自分の知らなかった頃の小梅の父の、その子の父親としての若い姿が泛ぶような気がした。……
そういう若い頃からの、この一市井人のこれまでの長い一生、震災で私の母を失ってからの十何年かの淋しい独居同様の生活、ことに病身で、殆んど転地生活ばかりつづけていた私を相手のたよりない晩年、――かなりな酒好きで、多少の道楽はしたようだが、どこまでもやさしい心の持ち主だった父は、私の母には常に一目置いていたようである。それは母の亡くなったのちも、母のために我儘にせられていた私を前と変らずに大事にし、一たびも疎略にしなかったほどだった。私はその間の事情はすこしも知らなかったけれど、いつも父の愛に信じきってそれに裏切られたことはなかったのだった。