Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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きゅうぶんにほんばし

旧聞日本橋

長谷川 時雨

Lesen Sie 旧聞日本橋 (きゅうぶんにほんばし) von 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 158.045 Zeichen · 322 Bildschirme

Aozora Bunko

次の間にはもう寝ているもののない、広々した住居に独りでポツネンと机にむかって、精密な珠算と細字とが、庭仕事の相間に初まり、やがて庭仕事の方が相間にされるようになった。薄の穂が飛んで、室内の老爺さんの肩に赤トンボがとまろうと、桜が散り込んで小禽が障子につきあたって飛廻っても、老爺さんには東京なのか山の中なのか、室内なのか外なのか、ムツリとして無愛想になってしまった。

だが、もうさびしい諦めはもっていたと見えて、山へ行くとは言いださなかった。たった一度そうした望みを洩したおり、私は出してやりたかった。山で死ぬのが彼にはいいと思ったが、彼の親類は困ると言った。それから急に年齢の衰えが来た。離家の垣根の隅でポッチリずつの硫黄を製煉し、研究している姿が蟇のように悲しかった。

私ひとりを便りにでもしているように、私がものを書いている窓に来て一言二言ずついった。野球のミットのような掌を広げると、土佐絵に盛りあげた菜の花の黄か――黄色い蝶をつかんできたのかと思うほど鮮かな色があった。

彼の試練からとれた硫黄だった。

「これをひとつ、お見せくださらんか。」

老爺さんの頭には、その時、時の知名の成功者たちの名がうかんでいたに相違なかった。