Japanische Klassiker mit Furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 145.078 Zeichen · 285 Bildschirme
雅楽頭はふところ紙を出し、額から両の頬、顎のまわりを押しぬぐった。紙はあぶらを吸って汚点になり、彼は三度それを繰り返した。
「原田甲斐め」と雅楽頭は呟いた、「――甲斐め、やはりしれ者だったな」
すると彼の頬がいっそう赤くなった。
久世大和守が帰ってから、半刻ほど経ったが、彼の耳にはまだ大和守の声が残っていた。寛文六年、大老になって以来、幕府の第一人者として、彼は思うままに生きて来た。人に意見されたこともなかったし、まして頭を押えられるとか、譲歩させられるなどということは一度もなかった。世間では彼を「下馬将軍」と呼び、将軍家綱でさえ彼を押えることはできない、といわれていた。だが、彼はいま面上へするどい一撃をくった。それはまったく予想もしない一撃であり、骨に徹するものであった。
――ことにあの証文。
一ノ関の兵部宗勝と取り交わした証文が、甲斐の手ににぎられているという。雅楽頭はすっかり忘れていた。兵部との約束も忘れていたし、証文の取り交わしなどということは、初めから気にかけてさえいなかった。兵部にせがまれたのでやむなく書いただけで、そんなものが問題になろうとは考えたこともなかった。