Japanische Klassiker mit Furigana
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おぎふくうた
犀星王朝小品集
室生 犀星
Lesen Sie 犀星王朝小品集 (おぎふくうた) von 室生 犀星 (むろうさいせい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 105.794 Zeichen · 211 Bildschirme
しかも、筒井と彼の乗っている舟とすれすれにこいで行った。筒井は彼に身をすりよせ、しきりに気を揉んでいった。
「牛が川におちたらどういたしましょう。」
「そんなことは万々ござるまい。」
町家の女のつれている子供が突然怖がって大声に泣き出した。船頭ははらはらして叱々と注意をし、母親は子供の口を手でふさいで、泣くと牛がびっくりして川に落ちるぞというと、子供が一層大声になり、怖がって泣き出した。その時、筒井の手がしずかに伸べられ、子供の怖がる眼路をふさいだ。伏見あたりでできる、衣裳の美しい小さい人形であった。
「これ、たまうぞ。」
子供は泣き歇み、舟中ではことに美しく栄える人形を抱きよせた。この女らしい優しい思いつきは舟中の客の胸に、いしくも温かい思をかもさせ、牛を乗せた船頭は感動していった。
「助かりましたぞ御娘子様。」
筒井は謙遜らしく頭をさげて見せた。彼はこの妻の仕儀にほとほと感銘したが、舟中のこと故、それはよい思いつきだといったきりであった。
牛を乗せた舟は川の中心に出てゆき、船頭は櫓をあげて筒井にもう一度、お礼のような形を取って見せた。舟中の牛の背中にある白い斑点がやっと見えるくらい遠のいた時分に、男は乗客に聞えぬ低い声でささやいた。