Japanische Klassiker mit Furigana
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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Lesen Sie 玉藻の前 (たまものまえ) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 130.703 Zeichen · 261 Bildschirme
「爺さま。よい天気じゃな」
千枝松はわざと声をかけると、翁は手をやすめて振り向いた。そうして、白い長い眉を皺めながらにこにこ笑った。
「おお、となり村の千枝まか。ほんによい秋日和じゃよ。秋も末になると、いつも雨の多いものじゃが、ことしは日和つづきで仕合わせじゃ。わしらのあきないも降ってはどうもならぬ」
「そうであろうのう」と、千枝松は翁の手に持っている壺をながめていた。婆は憎いが、この翁にむかっては彼は喧嘩を売るわけにはいかなかった。それでも彼はおどすように声をひそめて訊いた。
「この頃ここらへ天狗が出るという。ほんかな」
「なんの」と、翁はまた笑った。「ここらに住んでいる者はみんな善い人ばかりじゃ。悪い者は一人もない。天狗さまのお祟りを受けよう筈がないわ。ははははは。鬼の天狗のというても、大抵は人間のいたずらじゃ。ゆうべもわしの家の戸をたたいて、天狗じゃとおどかした奴があった」
「ほんに悪いことをする奴じゃ」と、婆も奥から声をかけた。「今度またいたずらをしおったら、すぐに追い掛けて捉まえて、あの鎌で向こう脛を薙いでくるるわ」
「天狗がつかまるかな」と、千枝松はあざけるように笑った。