Japanische Klassiker mit Furigana
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ばんちょうさらやしき
番町皿屋敷
岡本 綺堂
Lesen Sie 番町皿屋敷 (ばんちょうさらやしき) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 33.494 Zeichen · 67 Bildschirme
井筒のそばには一本の細い柳が水を覗くように立っていた。お菊は庭下駄を穿いて井筒のそばに寄った。そそけた島田の鬢をなぶろうとする柳の糸を振袖の袂で払いながら、彼女はその底をみおろすと、水に映ったのは自分の陰った顔ばかりで、母の懐かしい顔は泛んでいなかった。彼女はおとといのことを思い出した。
殿様は小判二枚を母に下されたのである。母も驚いたが、自分も驚いた。帰る時に御門の外まで送ってゆくと、母は案外の下され物に何だが不安を懐いているらしく、繰返してそれをほんとうに頂戴してもいいのであろうかと念を押すように自分にきいた。勿論、普通の奉公人の親に対しては格外の下され物である。母の怪しむのも無理はなかった。彼女は母に安心をあたえる為に、その不思議でない入訳を囁こうかとも思ったが、さすがに主人と自分との秘密を打明ける勇気がないので、好い加減に母の手前を取繕って別れてしまった。彼女はそれを母に洩らさないでよかったと思った。迂闊にそれを打明けて、母をもあわせて失望の淵へ沈めるような時節が来ないとも限らないと思った。それを思うと、彼女は遣瀬ないように悲しくなった。