Japanische Klassiker mit Furigana
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ばんちょうさらやしき
番町皿屋敷
岡本 綺堂
Lesen Sie 番町皿屋敷 (ばんちょうさらやしき) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 33.494 Zeichen · 67 Bildschirme
「これで手落ちはない。置燈籠の灯は暮れてから入れましょう」
独り言をいいながら彼女はうっとりと縁に立っていた。隣屋敷の沈んだ琴の音が若葉をくぐってゆるく流れて来るのを、彼女は聴くともなしに耳を傾けていたのであった。
琴のぬしをお菊は知っていた。それは隣屋敷の惣領娘で、今から四、五年前に家格が釣合わない位に違う大身の屋敷へ器量望みで貰われて行った。その当座は夫婦仲も羨ましいほどに睦じかったが、月日のたつうちに夫の愛は次第にさめて来て、釣合わぬは不縁の基という諺の通りに、嫁は里方へ戻された。そうして、出戻りの侘びしい身の憂さを糸の調べに慰めているのである。思いなしかその爪音は、人の涙をはじき出すように哀れに顫えていた。お菊はその沈んだ音色を聴くたびに、男にむごたらしゅう振り捨てられた女の哀しみに涙ぐまれたが、その涙が今もにじみ出して来た。身につまされるというのはこれであろう。今のお菊には取分けて、琴の主の身の上が痛々しく思われた。その物悲しい琴唄は弾く人のあわれを歌い、あわせて聴く人の哀れを知らせるのではないかとも疑われた。
お菊はいつまでも縁の柱に身を寄せて、引入れられるようにその唄と音色とに聞き惚れていると、陰った初夏の空は次第にたそがれて、井の端の柳の影も暗くなった。