Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(七) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 330.262 Zeichen · 662 Bildschirme
「…………」
今宵、彼女は文机のわきに、小さい土炉をおいて、薬湯をたぎらせていた。――そしてこれは徒然がちな宮中ではよくしていた習性から、さる手書の「古今和歌集」をお手本として手習いしていた。
「……?」
やはりお呼びかしら? しばらくすると、彼女はまた筆をおいた。
「そろそろ、お薬湯もさしあげるころ」
薬へ熱いのを注ぎ、彼女はそれをささげて、すぐとなりの病間へそっと立って行った。温い病臭が灯かげをたちこめ、枕の人は、何も知らぬらしくよく寝入っていた。
が、人の気配に、義貞はすぐ目をさました。そして自分をさしのぞいていた彼女へ、にっと、笑顔を作って、
「いたのか」
と、つぶやいた。
「お薬湯を……」
「もうそんな時刻か」
床のうえに起き直って。
「あ、汗をかいた。肌を拭こう。麗子、鈴を引いてくれい」
遠くで鈴が鳴った。
小侍が、廊の橋をかけてくる。耳盥に湯をといいつける。調うと、几帳や壁代で注意ぶかく風ふせぎを立て、彼女は、義貞に肌をぬがせた。そして、熱いしぼりで義貞の背や腋を拭きまわった。何か、張合いのある女の善事を励むみたいに、かいがいしかった。
数日前から、義貞はふと、不規則な熱と悪寒を訴えていた。